Natが今日、新しいカレンダーサーバ・プロジェクトHulaを発表した。これにはちょっと笑える話がある。
かれがこっちに来て、うちに寄って世間話をしていたときに言った。「で、その大量のコードを提供してもらえたから、公開してオープンソースのグループウェア・システムを作るんです! すごいのができますよ!」
ぼくは:「こらこらこら! なに考えてんの?“グループウェア”なんて縄に首突っ込んじゃダメだって! Netscapeはそれで殺されたんだから。頭大丈夫か?」
Natは子犬をいきなり蹴飛ばされたみたいな目でこっちを見た。さて、Netscapeを殺したものは基本的に二つある(ちゃんとした理由は本一冊分になるから思いきり単純にしているけど、それでも)
報道された大半は、マイクロソフトが既存の市場(ウェブブラウザ)を破壊するために他の市場(OS)での独占を違法に使い、ブラウザの市場価格をゼロに押し下げ、あっという間にNetscapeの収入のおよそ60%を途絶えさせたことだ。これは、もちろん悪い。
でももうひとつの理由は、Netscape 4が本当に最悪のクズ製品だったことだ。ぼくたちはNetscape 2のために出来のいい初心者向けメールリーダを作って、そいつは大成功した。成功のおかげで受けた罰は、経営陣がこの汎用メールリーダを見てこう言ったことだ:「このメールリーダが一般ユーザーに人気なのだから、飾り立てて“エンタープライズ”にしてグループウェアと呼ぶことにし、Lotus Notesと競合しなくては!」
そのために、経営陣はCollabraという会社を買った。ぼくらがやり遂げたのと同じようなことをやろうとしていた(そして大部分は失敗した)会社だ。かれらはその会社を買い、ぼくらの頭上にさらに四層のマネジメントを継ぎ足した。どうやってか、Collabraは完全にNetscapeのコントロールを握ってしまった――まるでNetscapeのほうが買収されたみたいだった。
それからやつらは豪快に迷走し始め、Collabra主導の"3.0"は卒倒しそうなほど遅れると誰の目にも明らかになって代わりに"2.1"が"3.0"になり、"3.0"を"4.0"として出すことになった。(だから3.0は、2.0のバグ直しパッチリリースみたいなだけじゃなかった。そのものだった。)
問題は、製品の方向性がまったく変わってしまったことだ。クライアント・グループのぼくらのフォーカスは常に、一般の人が使いたがる製品や機能を作ることだった。自分たちが使いたいものだ。ぼくたちの母親が使いたがるものだ。
「グループウェア」は結局「ワークフロー」みたいなものがすべてで、つまりこんなやつだ:「委員会の議長がチェックリストをメールしてきて、項目その3は終わらせたから項目3にチェックを入れて、ドキュメントを上役に送り返して項目3が“未チェック”から“チェック済み”に変更された件について承認を貰って、それから委員会に送り返してレビューを待つ」
こんなクソみたいなことが好きなやつはいない。少なくとも話し相手にしたいような人間にはいない。
世界を変えることをやりたいなら、普通の人が使いたがるソフトを作ることだ。マネージャたちが導入したがるソフトじゃなくて。
「グループウェア」だとか「エンタープライズ」なんて言葉が出始めたら、それは二番目のやつだ。官僚どもの永遠に続く会議が策定したチェックリストの細目を埋めるために機能を増やし、外野が決定する仕様のためにコーディングする羽目になる。どこかの企業が100「シート」くらいは買いたがるかもしれないが、誰も夢中になんてならない。そんなモチベーションでは誰もセクシーだなんて思わないし、誰ひとりしあわせにすることだってない。
笑える話だっていったけど、もちろん面白いのはここじゃない。悲しいのが笑えるんじゃなければ。
ともかく、Natにこんな話を延々と言い立てた。Natの話を聞いた企業内の人間は全員「フリーのグループウェア、うん、すばらしい!」と答えただろうが、そもそもそんなものをオープンソースで出そうなんて考える価値すらない。なぜなら、そんなものが「痒いところに手を伸ばす」タイプの開発者たちに支持されることなんて絶対にありえないからだ。そんなプロダクトでは、地下室にこもったティーンエージャーがただそれがクールだからとか、実際に便利だからという理由でハックすることなんてない。もしかしたらIBMが開発者一人か二人に小銭をやって手伝わせるかもしれないが、それは誰かに書かせた方がよそから製品を買うよりも安上がりかもしれないというだけだ。だがグループウェア製品じゃ、金も貰わずに開発したがるやつなんていない。そんなもの個人にとっては根本的に面白くないからだ。
だから狙いを絞るようにいった。「ユースケース」に想定すべきは、大学の寮に住んでる22歳の学生だ。そのソフトでどうやって女(男)とやれるか?
いきなり三つめの頭を生やしたみたいな目で見られた。だが考えてくれ、これは露骨だけど鋭いところをついてると思う。「このソフトは、ユーザがやれる相手を見つけるのにどう役立つか?」これこそ、ソーシャル・ソフトウェアの開発者全員が意識すべきことだ(そして最近のソフトはほとんど全部ソーシャル・ソフトウェアだ)。
人を幸せにするいろんなことをもっと簡単にするのが「ソーシャル・ソフトウェア」だ : 人と会うこと、交流すること、付き合うこと。
だから、なんでもできるスーパー「コラボレーション・サーバ」目指して掲示板やらタスク管理やらその他クソみたいな細かい機能を全部突っ込もうとするかわりに、仮にカレンダーだけに狙いを定めるとしてみよう、といった。
まず最初にやることは、他人がユーザのスケジュールをチェックできるように、カレンダーの公開をものすごく簡単にすることだ。(例えばいつ授業が入ってるか、カフェで勉強する予定はいつか、映画を観ようとしてるのはどの夜か、どのコンサートに行きたいと思ってるか)。今でも.icsファイルを公開すればできるけど、簡単じゃないし見る方にも作業が必要になる。友だちのホームページについてるHTMLで、どのブラウザでも図書館の公共端末からでも見られない限り、エントリーのハードルが高すぎて役に立たない。
次にやろうとするのは、Eviteみたいだけどあんなクソじゃない招待マネージャだ。Eviteが最低なのはspammerだからで、役に立つことよりもユーザの目の前に広告を出すことの方が重要だからだ。サイトに誘導してヒットを稼ごうとする間抜けな魂胆で、送られてくる招待メールにはほとんど情報がない。だから二番目に必要なのはフリーなEvite代替だ――だけど本当に大切なのは、どこにもどんなサーバも不要にすることだ。
さらにもしwebmailで使えないなら、勝負する前にもう負けてる。だからプラグインを要求するような間抜けなことはしちゃいけない。実現すべきなのは、ひとりが使い始めたら、周りはまったく何もしなくても、当人とその友だち全員の役に立つ仕掛けだ。友人たちはその後になってから引きいれることになる:ソフトを使い始めれば、今度はそのユーザ自身がハブになり、すでに外から目撃していた便利さを手に入れられる。
このあとNatはNovellがあるどこか田舎の州に戻り、二・三日たってからこういってきた。「もう、あの話ですごくへこみましたよ。だってあなたと会う前に話した相手は全員「フリーのグループウェア・システム?そりゃいいアイデアだ!」って言ってたのに。ほんとにがっくりきて、こっちに戻ってからその人たちにあなたの話を聞かせました。そしたら全員「ああっ!かれの言う通りだ!」」
待った。面白い部分なんてあった? なかったかも。まあ気にしない。