ビル・ゲイツ インタビュー : 共産主義者、DRM

ガジェット情報サイトGizmodoによるインタビュー。

Gizmodo : Gates Interview Part Four: Communists and DRM (2005/01/13)
和訳:ittousai (ittousai.org), 2005年1月14日
[*p数字]は文書内リンク。各段落頭の空白はアンカーになっています
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Slashdot.orgでの議論 (2005/01/14)
スラッシュドット・ジャパンでの議論 (2005/01/18)

ゲイツ会長

Gizmodo: 確か昨日だったと思いますが、CNetのインタビュー(CNET Japan訳)中のちょっとしたコメントで一部Blog界の怒りを買われましたね。知的財産権について、オープンソースに限らずクリエイティブ・コモンズのような、より制約の少ない知的財産環境を求める声について。例え話をして、かれらを「コミュニスト」と呼んでおられました。

 そうした主張をする人々を「共産主義者」と呼ぶのは正当な判断だとお考えですか。では反対側の、たとえばDRM(デジタル著作権管理)を推進するのはもしかして…「資本主義者」?(反対側がどんなものだとお考えなのか分かりませんが)

ゲイツ: いやいや、そうじゃない。そういった人々が「コミュニスト」だと言ったわけじゃない。わたしが言ったのは、つまり彼らは……問題は、「必要なのはどんなインセンティブの仕組みか?」ということなんだ。「共産主義」という言葉を、極端な場合では、個人がその働きの見返りとして多くの富を築くことは間違いであると信じられているシステムだとしよう。個人が優れた仕事をするインセンティブが無くて、そう、禁止されているような。もう一方の極端は、こんなことを信じている人はいないが、どんな富の再分配もなく、権利やコントロールが期限切れになることもない世界だ。つまり、その二つの間にはとても広い幅がある。

 わたしが言ったのはただ、クリエイティブな作品のためのインセンティブの仕組みは一切あってはならないと信じる極端な人々がいるということだ。数は減ってきているが。インタビューで受けた質問は、「知的財産やインセンティブという制度に対する支持は壊滅状態にあるようですが、その大きなトレンドに気づいていますか?」といったもののようだったから、そんなことはない、その反対だと答えたんだ。資本主義的なインセンティブという考え方は世界的にも優位で(中国を考えよう)、これまでになく受け入れられている。それだけのことだ。[*p4]

 たしかに、考えた上で反対の意見を持つ人もいることだろう。どちら側にしろ極端な意見を主張する人々はごく少ないが、多くの優れた議論がある。例えば特許制度はないほうがいいという主張もある。また別に、特許制度は改良できるという考え方もある。わたしはただ、世界的に優勢なのは「よし、中国の優れた人々の創造性を引き出そう」という考え方だといったんだ。共産主義のシステムでは不可能だったことだ。インドの人々の創造性も引きだそう。大学という優れたシステムやインターネットで、これまでにない便利な方法で世界中から買い手や売り手を見つけられるようにしよう。そうすれば世界はもっと豊かになるんだ。

Gizmodo: 知的財産――ソフトウェアでも音楽でも何でも――を保護するためにはDRMが不可欠だとお考えですか。それとも、コンテンツの流通を押さえている企業から、あなたのシステム向けにコンテンツを提供してもらうためにはDRMを用意しなければならないとお考えなのでしょうか。

ゲイツ: まあ、DRMのことはひとまず忘れなさい。優れた曲を作ったアーティストはその曲に対して支払いを受けられるべきか? まずここから考えなければいけない。DRMから始めては駄目だ。DRMとは単に、きみが与えられた権利の範囲内にいるか外れてしまったか知らせるための徐行帯(speed bump)のようなものにすぎないんだ。だからDRMから考えてはいけない。それではまるで「徐行帯を支持しますか?」と聞くようなものだ。そうではなく、「駐車場のなかで時速130キロも出して良いのか?」と聞かなければならない。もし良いと思っているなら、もちろん徐行帯に反対ということになるだろうね。

Gizmodo: それはちょっと誠実な例えではないと思います。もちろん多くの人がアーティストやソフトウェアの作者は報酬を受けるべきだと……

ゲイツ: いやいやいや、それは事実じゃない! そう思っていない人間は大勢いる。正当な支払いなどまったく考えていない人間が。

Gizmodo: そうはいっても……いや、分かりました。確かにその通りなんでしょう。確かに一方では……

ゲイツ: 1950年の中国に戻って、「曲を書いたからお金ちょうだい!お願い払って!」と言ってみればいい。もちろん支払いなど受けられない。確かに、インセンティブへの考え方はいろいろあるということだ。

Gizmodo: わかりました。その通りなんでしょう。ではDRMは障害物というか、通行を制限するためにブロックを設置するというマイクロソフトの役割は、アーティストが報酬を受ける手助けだということでしょうか。人々が自分の金を守る手助けをしている?

ゲイツ: それはかれらが考えていることだ。

Gizmodo: そう考えているのはアーティストだということですか?

ゲイツ: そうだ。権利の境界に気づかせるソフトウェアを求めるアーティストがいるということだ。かれらは正しいのか? それはかれら次第だ。われわれはそうした判断はしない。われわれが求めているのは、できるだけ多くのコンテンツを利用可能にすることだ。できるだけ便利に、使いやすい形で。[*p15]

Gizmodo: それならば、なぜWindows video playerは――出たばかりの[ポータブル]メディアセンターはどうしてトランスコードする必要があるんですか? つまりダウンロードしたり自分で買ったDVDからリップしたDivXファイルをコピーする際に、なぜ必ずWindows Media Video形式に変換しなければならないんでしょう。

ゲイツ: それは著作権管理と何の関係もない。なんでもないんだ。われわれはコーデックを持っていないんだよ! 単にポータブル・メディアセンターにはそのコーデックを入れなかったというだけなんだ。デジタル著作権管理とは関係ない。DivXのコーデックを入れるべきかという議論もある。信じるかどうかはともかく、皮肉な話だと思うだろうが、われわれは知的財産絡みで訴えられたりしているが、同時に知的財産は守るべきだと主張していて、メディアセンターPCのようなわが社のシステムに何かコンテンツを加えるときには知的財産権がどうなっているかチェックする必要があるんだ。

 きみの言うトランスコーディングは権利の管理とはまったく関係ない。ネイティブで対応していないフォーマットがあれば、われわれはトランスコードするしかない。なんでネイティブで対応しないんだといわれれば、それは何種類のコーデックを組み込むべきかという話になる。実際DSPは追加のフォーマットに対応できるくらい高性能だし、もしかしたら将来のバージョンではそうしたフォーマットを追加するべきかもしれない。何も哲学とかそんな話ではないし、著作権管理とはまったく関わりがない。

 われわれがこれまでずっと支持してきたのは、これまでのどんな製品でも、もしコンテンツに権利関係を示すエンベロープが付いていなければ、中身を嗅ぎ回って「おや、このファイルにはミッキーマウスが含まれてるみたいだぞ。ミッキーマウスを購入した記録は見あたらないのに」なんてことは決してやらないということだ。われわれが支持するのはつまり……もしエンベロープが無ければ、われわれの製品はどんなすばらしいことだってできる。

 だがもしコンテンツが権利を記したエンベロープに包まれていて、「これはこのようにしなければならない」と書いてあるようなときは、たしかに君のいう通りだ。われわれのプラットフォーム向けにさらに幅広いコンテンツを提供してもらうために、われわれは作者と話し合いをしてきた。ほとんどは代理人とだが、ときには直接アーティストと話し合って、「では、どんな種類のエンベロープをお望みですか? 何を期待しますか?」と聞くんだ。時にはまるで非現実的で、ユーザーにとって不便なことを頼まれることもあるがね。

Gizmodo: 思うのは――というか残念なのは――なんというか、わたしは顧客として、マイクロソフトに全面的にこちら側について欲しいと思うんです。コンテンツを販売する側にしてみれば、もっと厳しいDRMでもっと不便にしたいと思うかもしれませんよね。その手助けをすることがなぜ常にマイクロソフトの利益になるとお考えになるのか分からないんです。

ゲイツ: いや、まさにそれについて説明したんだ。われわれは全面的にあなたがたの利益のことを考えているが、そのなかには……もし権利保護された形でのみ提供されるコンテンツがあるなら、われわれはそれも手に入るようにしたい。だからわれわれがやっているのはすべて……きみたちの害になるようなことは一切していない。もしコンテンツ保有者側がオープンなかたちで提供したがっているなら、それがいちばんいい。それがもっともシンプルだ。

 例えば、われわれのムービー・エディタを使って映像にサウンドトラックを付けるとしよう。もしプロテクトのない音楽を持っていれば、スライドショウに音楽を乗せて、ファイルに出力して、メールで送ったりとか――完璧に機能する。もし著作権管理が付いていれば、確かに不便だ。メールで受けとった人には再生を許可する証明書がないから、ちょっと困ったことになる。だがそれはアーティストが……そういった形でしかライセンスされないものがあるから、それはサウンドトラックに使うのは難しい。だがわれわれは君たちのために、まったく手に入らないよりは、なんとかして提供できるようにと思ってるんだ。それに作者が著作権管理を採用すると決めたなら、そもそも手を出さないか、定められた条件で利用するかだ。それは君の選択だ。[*p23]

 われわれは顧客のできることを増やす企業なんだ。コンテンツが広く手に入るようにしたいと願っている。だが、「それはそうと、利用者に権利の境界を知らせる手段はどこにもありませんよ」なんて言っても誰の利益にもならないだろう。

 例えば医療上の記録のことを考えてみよう。診察記録を保護するための権利管理システムは悪だというのが君の立場なのかな?

Gizmodo: 「悪」というのはちょっと強い言葉ですね。医療記録にもどんな権利管理システムもあってはならないという立場という意味ですか?

ゲイツ: そうだ。例えば誰かがエイズに罹っているかどうかを含む診療記録があったら、われわれのソフトウェアが利用できる。まったく同じDRMソフトウェアだ。たとえばその記録を誰かに転送しようとすれば、「制限付きです。転送できません。転送先はこれを読むための権利を持っていません」となる。つまり問題は、「そもそも非公開の情報というものは存在すべきか」ということなんだよ。

Gizmodo: それは話がちがうと思います。

ゲイツ: 違わないね。まったく同一の技術だ。おなじビットじゃないか!

Gizmodo: いや、そういうことではなくて、何と比べて「悪」と呼ぶにしろ、要するに「何かにパスワードをかけることは可能であるべきだと思うか?」ということなら、答えは当然「イエス」です。もちろんそれは理に適ってます。つまり「DRMそのものが悪」なんて言っているわけではなくて、多くの人が言おうとしているのは、力のあるプレーヤーによって認可されているようなDRMは、文化全体を阻害しているかもしれないということです。

ゲイツ: われわれがシステムに組み込んでいるDRMは診療情報を保護するために使われているし、人々が守りたいと思うものを守るために使われている。だからわたしにとっては、「いや、もしかしたら一部の人が気に入らないような形でメディアを保護するために使われるかもしれないから、診療情報の保護のためでもそんなシステムは組み込めません」という訳にはいかないね。これは何であれ人々が選んだとおりに利用できるプラットフォームなんだ。[*p31]

Gizmodo: それはなんだか「子供たちのことを考えよう」という言い方に似ていますね。おっしゃることは分かりますが、「診察記録にパスワードをかけるのは良いこと」だからというだけで、私が購入した音楽やその他にとっても必ずしも良いアイデアだとは思えません。結局は、金を払って購入しているのは何なのかということに行きつくのだと思いますが。

ゲイツ: われわれは単にプラットフォームに機能を組み込んでいるだけだ。私が言いたいのはただ、プラットフォームにビットを――ビットだ、音楽でも映画でもなく、医療記録でも技術ものでもなく、ただのビットを――どんな風にでも使用制限できる機能を用意しているからといって、われわれを批判できるのかということだ。一部のユーザが、彼らが望んだときに、あるビットの集まり――医療記録かもしれない――のアクセスを制限できるからといって、われわれは世界全体に害を及ぼしているのか?

Gizmodo: プラットフォームを用意するということですか? いや、それ自体は悪いことじゃありません。でもそれは何をプロテクトするのかということに依存すると思います。まあ、意見が一致するとは思いませんが。

ゲイツ: いや、わたしは意見の対立があるとは思わないね。


Gizmodo : Gates Interview Part Four: Communists and DRM (2005/01/13)
Japanese Translation:ittousai (ittousai.org), (2005/01/14)
(付記は訳者による)
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付記:

*p4 [本文に戻る]

インタビューで受けた質問(CNET Japan)

In recent years, there's been a lot of people clamoring to reform and restrict intellectual-property rights. It started out with just a few people, but now there are a bunch of advocates saying, "We've got to look at patents, we've got to look at copyrights." What's driving this, and do you think intellectual-property laws need to be reformed?

ここ数年、非常に多くの人々が知的財産権の改革や制限を求めています。始めはごくわずかでしたが、現在では数多くの論者が「われわれは特許を見直すべきだ、著作権を見直すべきだ」と主張しています。この背景にあるものはなんでしょうか。また、知的財産関連の法律には改革が必要だとお考えですか。

ゲイツ要約:「知的財産やインセンティブという制度に対する支持は壊滅状態にあるようですが、その大きなトレンドに気づいていますか?」
spinning!
*p15 [本文に戻る]

われわれはそうした判断はしない

WindowsMediaPlayerは正規に購入したCDでも、著作権と無関係にデフォルトで“ライセンス”(レコード会社ではなくマイクロソフトが独自に設定した利用制限)を埋め込んだ「保護」形式に変換する。リッピングしたPC以外では聞くことができない。また(ウィルスやハードウェア故障などで)Windowsを再インストールすると、バックアップしておいた音楽ライブラリは再生できなくなる。
反面、音楽CDにコピー禁止ビットが含まれていても、「権利関係を示すエンベロープ」を無視してリッピングが可能。

ゲイツは中立のDRM技術提供者としてのMSを強調しているが、サービスプロバイダ(MSN Music)・デバイスメーカー(メディアセンター)としてのMSは中立とはほど遠い。ガジェット情報サイトであるGizmodoは競合他社と比較したマイクロソフトの戦略を問題にしている。

Microsoft Windows Media - Windows Media DRM に関してよく寄せられる質問
(問題が起こる前にあらかじめ「ライセンスの保存」メニューを選択してPCの固体識別情報を外部メディアにパックアップしておいた場合は、再インストール後に復元手続きをとることができる。ただし一定回数のみ。)

*p23 [本文に戻る]

“そもそも手を出さないか、定められた条件で利用するかだ。それは君の選択だ”

「権利の範囲内から外れたことをお知らせ」された例。

いずれもデバイスやコンテンツを購入した後になってから「定められた条件」が変更され、著作権法では認められている行為(家庭録画、CMスキップetc)がDRMによって制限されている。

“DRMの利点は「市場の状況の変化に合わせて、後から権利内容の変更が可能」な点”
――マイクロソフト日本法人法務本部長 水越尚子弁護士
(INTERNET Watch:高まるDRMの重要性~コンテンツビジネスと著作権 )

*p31 [本文に戻る]

「技術に善悪はない」論。あるいは「ゲイツに苦情をいうのはお門違い」。
ガジェット情報サイトであるGizmodoは一貫して、「DRMは善でも悪でもない。だが、DRMはデータの価値を下げる"DRM makes data less valuable."」という立場から、マイクロソフトに対してより競争力の高い製品を求めている。
Gizmodo : Same Song, Second Verse: iTunes Breaks Hymn

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